"絆" KIZUNA プロジェクト 2012 報告


Peace Field Japan は、2012 年8 月に、" 絆" KIZUNA プロジェクトを行いました。三地域の青少年が日本の自然豊かな山里で共に生活し、地域の人が育んできた暮らし、自然、文化、伝統にふれる体験を共有することで、持続可能な平和な社会を作るために何ができるのかを一緒に考える場を提供しました。
 
 

プログラム概要

1) 参加者:
イスラエルの高校生女子4名、指導者1名
パレスチナ(西岸)の高校生女子4名、指導者1名
日本の16才から19才の女子4名

2) 開催地:山梨県北杜市、小菅村、東京都内

3) プログラム概要
期 間:8月7日~20日
場 所:山梨県北杜市、小菅村、東京都内
参加者:イスラエル、日本、パレスチナの16~19才の青少年各4人
主 催:認定特定非営利活動法人PEACE FIELD JAPAN
助 成:独立行政法人国際交流基金
協 力:財団法人キープ協会
後 援:外務省、文部科学省、小菅村役場、小菅村教育委員会
協 賛:横浜南ロータリークラブ
物品協賛:株式会社東あられ本舗、インド&パキスタンレストラン スルターン、公益法人自然農法国際研究開発センター、新亜細亜貿易株式会社、株式会社はくばく、株式会社マンナンライフ、株式会社良品計画
 
4) 日 程:
8月 7日(日):成田着 清里高原へ移動
8月 8日(月):キープ協会でのプログラム
8月 9日(火):キープ協会でのプログラム、ハートコミュニケーション講座
8月10日(水):小菅村に移動、オリエンテーション、生活のルール作り、家族/暮らし紹介
8月11日(木):自然体験(川)、地域のお祭り訪問
8月12日(金):小菅講座、長作集落散策、ソバの種まき体験
8月13日(土):源流の森と水を考える(源流の森、白糸の滝、下水処理場、養魚場、林業廃棄物センター、間伐体験)
8月14日(日):そばうち体験、そばせん作り体験
8月15日(月):自然体験(山登り)、チームで料理作り
8月16日(火):こんにゃく作り体験、村の子どもたちとの交流、キャンプ
8月17日(水):かご作り体験、持続可能なコミュニティ作りのためのアクションプラン作り
8月18日(木):オープンハウス&お礼の会(中東の文化、料理紹介と成果報告会)
8月19日(金):東京に移動、フェアウェルパーティー
8月20日(土):両国参加者帰国

プログラム内容

 

8月7日(火)

イスラエル、パレスチナからの参加者が成田空港に到着。バスで清里に向けて出発。途中都内で日本の参加者とスタッフが合流し、清里高原のキープ協会に到着しました。参加者は、森の中の2つのキャビンに分かれて宿泊。

8月8日(水)

キープ協会での最初のプログラムは、聖ヨハネ幼稚園を訪問しての園児たちとの交流。幼稚園では、3地域の参加者を温かく迎えていただき、参加者はグループごとに子どもの歌を披露したあと、元気いっぱいの園児たちと触れ合い ました。

午後は、キープ協会の創設者であるポール・ラッシュ氏の軌跡と考え方についてピース・プラクティショナーのローラさんから講義を受けました。その後キープ協会の小西さんによるアイスブレーク・プログラムでお互い打ち解けた後、ポール・ラッシュ博物館を見学しました。

8月9日(木)

午前中は、対話の準備として、ハート・コミュニケーション(心の対話)のセッションを行いました。相手の言うことを尊重して心から聞くコンパッション・リスニングがプログラム中のコミュニケーションの基本となります。その後、プログラムそのものが「一期一会」の機会であることを全員で確認するために、茶道を体験しました。みんな正座するのが辛そうでした。

午後は、キープ協会のパン工房、酪農場などを見学し、キープ協会が実践する持続可能な社会作りについて学びました。

8月10日(金)

2008年の参加者が植樹した「Peace Youth Tree」の前で、2日間のプログラムを終えての感想を全員で共有してキープ協会を出発、小菅村の寺子屋自然塾に到着し、前日から準備をしていたスタッフに迎えられました。オリエンテーション、共同生活のルールを決めた後、家族や友達、趣味や好きなものをパワーポイントで紹介しあい、お互いのバックグラウンドを知りました。参加者12人が同じ部屋に寝泊まりしての共同生活、いよいよ小菅村でのプログラムの始まりです。

8月11日(土)

今年は、体を目覚めさせるために、毎朝ラジオ体操を行いました。スタッフをお手本に、音楽に合わせて体操。午前中はアイスブレークのゲームや大縄跳び、二人三脚などで汗をかいた後、川で水遊び。思いっきり水をかけあい、笑顔が弾けました。自由時間には様々なゲームやダンスを教え合うなど、相手との距離を縮めようとする気持ちが伝わります。夜は浴衣を着て、橋立集落のお祭りに伺いました。集落のみなさんによるお神楽に、伝統と地域の絆を感じました。

8月12日(日)

 
朝食後、まずは自分たちの生活の場である宿舎を全員で掃除した後、「里山と小菅講座」。持続可能なコミュニティのモデルである里山をテーマに、自然と人とのかかわり、自然の循環の中での暮らしを学びました。里山である小菅村の暮らし、課題についても学び、過疎高齢化に直面している小菅村を持続可能なコミュニティにするためのアイデアを話し合いました。午後は、集落を散策しながら、小菅村の自然や暮らしについて、スタッフから説明を受けました。
 
そして今年も、毎年お世話になっている守重敏夫さん、広子さんご夫婦の畑でそばの種まきを行いました。鍬で畝を作り、種をまき、土をかぶせる、という畑作業です。このそばは、2011年の参加者がまき、秋にスタッフが収穫したものです。同じように、2013年の参加者がまた今年蒔いたこのそばの種をまく予定です。慣れないながらも、自然のつながりを感じながら一生懸命作業しました。
 
作業の後は、守重さんの畑で、トマトやピーマン、きゅうりなどを採らせていただきました。農薬も化学肥料も使わずに、心をこめて育てられた野菜の新鮮な味に、感動していました。

8月13日(月)

 
多摩川源流の村である小菅村の自然を守る取り組みについて学ぶ一日でした。小菅村役場の青栁さんの案内で、まず、林道の奥の白糸の滝へ。一面の緑の中、きれいな水が落ちる滝で自然を感じました。東京都の水源林となっている森では、森の手入れの仕方、高齢化で森の手入れが難しいこと、東京からボランティアで間伐の手伝いに来ていることなどの説明を受け、下流域に水を提供するために必要な森の管理の大切さを学びました。
 
また、小菅養魚場で、きれいな水があるからこその産業となっているヤマメやニジマスの養殖について教えていただきました。使った水をきれいにしてから川に戻していることを伺いました。その後、上流の村の責任として、下水を処理してから川にもどすための下水処理場、村の全家庭から生ゴミを回収して堆肥にしている林業廃棄物センターを見学しました。
 
最後に、守重さんの森で、間伐体験を行い、森の手入れが大変なことを実感しました。小菅村の人たちの、自然を守る取り組みの現場を見ることができ、参加者にとって貴重な学びの場となりました。

8月14日(火)

午前中はそば打ち体験。2011年の参加者が種をまき、スタッフが収穫したそばの粉です。集落の方々を講師に、なかなか器用にそば打ちをしていました。昼食は自ら打ったそばと小菅村でとれた野菜の天ぷら。午後は、そば粉を使ったそばせんべい作りです。丸めた生地を鉄型に入れ、すばやく型を回しながら焼く作業は思ったより大変。焼き上がったら、寺子屋の焼き印を押してできあがりです。そばを通じて食と文化、自然のつながりを体験した日でした。

8月15日(水)

守重敏夫さんの案内で標高1349mの奈良倉山登山。途中でばてた状態の参加者もいましたが、みんなで励ましあって、全員で頂上まで登りきることができました。山頂でもみんなで歌ったりゲームをしたりしました。  夕食は参加者たちが料理をしました。2グループに分かれ、用意された食材を使って、それぞれ話し合って何を作るか決めました。“小菅の自然”をイメージした料理というのがテーマでしたが、できあがってみたら、ほとんどが中東料理風。自分たちで作った夕食の味は最高だったようです。

8月16日(木)

午前中は、小菅村出身の学生スタッフのお祖母さんの家でこんにゃく作り体験。できあがったこんにゃくはとてもおいしかったです。こんにゃくいもをミキサーにかけたものをかきまぜ、ねかせておく間、お祖父さんの案内でわさび田を見学しました。
 
午後からは小菅村の小学生から中学生まで12人が参加しての交流キャンプを行いました。自己紹介の名刺交換ゲームの後、三地域の参加者が、それぞれのゲームを紹介。言葉は通じなくても、大いに盛り上がりました。その後ドッジボールでの対抗戦を行ってから、テントを張りました。夕食で塩焼きにするために、マスの串刺しにも挑戦しました。
 
夕食は長作集落のみなさまによる、小菅の食材を使った料理。外でわいわい楽しい食事となりました。食後はスイカ割りと花火を楽しみました。寺子屋シアターと称し、スタッフによる「かさ地蔵」のお芝居は、拍手大喝采でした。夜は参加者と子どもたちが一緒にテントで寝ました。蒸し暑くて寝苦しかったようですが、思い出に残る一夜となりました。

8月17日(金)

テントで一夜を過ごした後は、集落の方と子どもたち全員でラジオ体操。みんなでテントの片付けをしてから朝食。終わりの会では、前日のドッジボール試合の結果に応じて、賞状が授与され、ふりかえりを行いました。子どもたちが元気に帰った後、集落の方を講師に、古くから村で作られていた竹で編んだかご作り体験。暮らしの知恵と伝統技術を学びました。昼食は、巻き寿司作りに挑戦。中東でも人気の寿司、日本の食文化としてきちんとした作り方を学んでもらいました。
 
午後は、2週間を通して学んだことをまとめ、一人一人が、昔から受け継がれて来た自然、文化、伝統を未来へつなげる責任があることを確認しました。そして、プログラムで学んだことを活かして、持続可能な社会作りのために何をしていくのか、グループで話し合い、まとめました。プログラム後、それぞれの目標ができました。夕立の後、そばを蒔いた畑に行くと、すでに芽が出ていました。10月に、日本人参加者とスタッフで刈り取りに行きます。

8月18日(木)

小菅での最後の1日。夜のお礼の会へ向けて、みんな協力して会場の飾り付け、中東料理作りなど、朝から準備をしました。共同で行う作業もいよいよ最後です。夜のお礼の会では、交流キャンプに参加してくれた村の子どもたち、ご家族、お世話になった村のみなさまが大勢参加してくれました。
 
参加者が料理した中東料理でおもてなしするとともに、それぞれの地域のダンスを一緒に踊りました。司会のエイナブ(イスラエル)とラザン(パレスチナ)は日本語での進行に挑戦。頑張りました。2週間のプログラムを終えるにあたって全員で達成感を共有しながら、お礼の会が終わっても、ダンスで大騒ぎの夜でした。

8月19日(日)

東京に移動し、浅草を訪れて小菅とは別の日本の風景に触れました。今年のフェアウェル・パーティーはイスラエル出身のパレスチナ人シャディさんのレストランで行いました。プログラムの様子をふりかえるスライドショーの後、参加者一人ずつに修了証を授与し、最後は、今年のテーマダンスとなった“まるもダンス”で締めくくりました。

8月20日(月)

イスラエル、パレスチナ参加者帰国。日本の参加者が成田空港まで見送りに行きました。近い将来再会を期してのお別れでした。

関連の活動

 1) 講演会/報告会(2012年10月15日開催)
 
 2) イスラエル、パレスチナへのスタディーツアー(2011年12月、2012年3月)

参加者からのメッセージ

プログラムが終わる今、イスラエル・パレスチナ紛争のもう一方の人たちの苦しみがよくわかる。このプログラムのおかげで、両親や友達、自分のコミュニティの影響を受けずに、直接、パレスチナ人参加者と話すことができた。彼女たちに対する、感情的、精神的な重荷を感じずに参加したつもりだし、自分が彼女たちに心を開き、自分と同じだと思えたことがうれしい。パレスチナの参加者は、私たちに対する圧倒的な感情の重荷とともに参加していた。抱いていたイメージとは違うことを何とかわかってもらえたこと、彼女たちと関係を作り、友達になれたことがうれしい。独立したパレスチナ国家が樹立されることが重要であるという自分の信念をこれからも持ち続けるし、このことを考え、そのために行動する時、今回出会ったパレスチナの女の子たちのこと、彼女たちと自分のつながり、彼女たちが置かれている状況への共感を常に思うだろう。(イスラエル人参加者)


このプログラムに参加して、いつか平和が来るかもしれないと思えるようになった。イスラエルの参加者たちは、自分達と同じ人間だった。もっと話したいし、理解しあいたい。(パレスチナ人参加者)


とてもめずらしいプログラムだと思う。参加してみて、このような機会を得られることはそうないと感じた。自分の振る舞いに気をつけたり、普通に接したり、複雑な環境下に暮らす二国の参加者たちと生活を共にすることは時にすごく難しくもあったが、初めてのことばかりで良い体験だった。また、それに加えて自分自身が今まで知らなかった日本の姿についても学ぶことができた。短い間でも有意義に過ごせたと思う。(日本人参加者)
相手の伝統や習慣を受け入れ、穏やかに接し、複雑な問題に対しても緊張状態となることなく、他者とどのように話すべきかを学んだ。このことをこれからの生活に活かしていきたい。(パレスチナ人参加者) 


世界中で一般的に、特に日本でみられるあらゆる発展、技術、進歩があったとしても、それ以前からあるもの、自然を守り大切にすることを忘れてはならないということを学んだ。小菅ではすべてが自然を中心にまわり、自然は人々に落ち着きと静寂をもたらしていた。私たちは、自然を持続させること、そして自然と人との相互作用に責任があることを学んだ。残ったら米一粒でもコンポストにする、そんな小さな行動が、大きく重要な結果につながることを学んだ。(イスラエル人参加者)


自然と人のつながり、国を越えた人とのつながり、多くの絆を感じられた。都会にはない自然の中での生活を通じて、自分自身の将来を考えさせられたとともに、異国の人々との交流のあり方についても考える機会となった。(日本人参加者)